国籍や戸籍については、日本に住んでいる大多数の日本人にとっては、ふだん意識することもありませんが、外国に住んでいると話題になることがあります。国際的には重国籍を認める国が多い中、日本では認められていないからです。外国人力士のように「今日から日本人」という人もいれば、国籍がひとつしか持てないために、仕方なく日本国籍を放棄して「元日本人」になる人もいます。「元日本人」というラベルを自分に貼ることは、たんなる書類上のことだと簡単に割り切れるものではないのではないでしょうか。(約2,000文字)
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やっぱり二重国籍は認められない
海外に住む日本人は増え続けている。外務省によると、滞在3カ月以上の長期滞在者と永住者は1989年は約58万7千人だったが、2019年には約141万人になった。国連の調査では、11年時点で世界の7割ほどの国が条件付きを含めて重国籍を認めている。
朝日新聞デジタル2021/1/21
詳しくはたとえば朝日新聞デジタルの元記事「二重国籍を認めない国籍法は『合憲』東京地裁が初判断」(2021年1月21日)を見ていただきたいのですが、簡単に言うと「外国籍を取得すると日本国籍を失う国籍法の規定は合憲」であると東京地裁が判決を言い渡したというニュースが最近ありました。
判決当日は、10年以上にわたって、毎年国籍法の改正を求めて国会請願を続けている会の人たち主催で「地裁判決を受けてのZoom報告集会」もあったようです。
二重国籍だった蓮舫と大坂なおみは日本国籍を選択した
蓮舫の場合
2016年、民進党代表選挙に立候補するに際し、蓮舫氏が日本と台湾の二重国籍状態にあることが問題になりましたが、これを受け、台湾籍の離脱手続きを行いました。
しかし、政治家になる前の蓮舫氏は「自分の中のアイデンティティーは『日本』とは違うと感じる」と公言し、ニュース番組『ステーションEYE』のメインキャスターに起用されたときには、「在日の中国国籍のものとしてアジアの視点にこだわりたい」と抱負を語るなど、台湾国籍を持つ二重国籍者であることを自身の特長としてアピールをしていたそうです。(参考:ウィキペディア)
大坂なおみの場合
アメリカ人の父と日本人の母との間に生まれ、3歳からずっとアメリカ暮らしだった大坂なおみ選手はハーフの子供として生まれながらにずっと二重国籍を持っていたあと、日本の法律に従い、国籍の選択義務が生じる22歳の誕生日の前に日本国籍を選択しました。
アメリカ国籍を選んだ「元日本人」
在米20年後の44歳のとき、永住権の更新時期に「勢い」でアメリカ国籍を取得したという女性や、老後、アメリカで受給する年金のことを考えてアメリカ国籍を取得したという男性の話などがヤフーニュース(2019/10/12)の記事に載っています。
「将来、日本に住みたいと心変わりしたらどうするつもりなのか」の質問に女性の方は「今は考えていないが」”もし”そうなったらアメリカ国籍のまま、日本で永住権をもらうと回答していました。50代になっている男性の方は、「アメリカ国籍を取得した時はまったく考えなかったが、歳をとって考えも変わってきた。高齢になって日本に帰った人を何人も知っており、彼らの気持ちが理解できる」ので、将来、自分が日本に帰ることが今や想定内とのこと。
蓮舫氏は帰化したとき、「今、日本人でいるのは、それが都合がいいからです。日本のパスポートは、あくまで外国に行きやすいからというだけのもの。私には、それ以上の意味はありません。」と語っていて、台湾人としてのアイデンティティの強さが伺えます。
便宜上の理由で国籍を選択することにはなんの問題もありませんが、日本で生まれ育ち、成人してから外国で暮らすようになった人が、書類上「元日本人」になるのは複雑な心境であることは確かだと思います。
その他、国籍・戸籍に関するよみもの
●国籍と遺書、兄への手紙
本記事とは直接には関係がないのですが、在日韓国人の戸籍をめぐって考えさせられる内容だったので、ご紹介します。
●ある日突然「日本人ではなくなった」31歳男性の告白
これも本記事とはさらに関係がないのですが、NHKのEテレの「ねほりんぱほりん」で取り上げられた「戸籍のない人」に衝撃を受けたことを思い出し、今、検索して似たケースを見つけましたので、ご紹介します。
●蓮舫「二重国籍」問題に見る在日台湾人のジレンマ(2017/09/09)
台湾人と日本人のハーフである著者が、二重国籍化を招きやすい日本の行政対応や在日台湾人の「国籍」が歴史に翻弄される面を持つことなど書いています。
●「国籍」は揺らぎ続ける—世界の潮流から取り残された日本の国籍法(2018.04.24)
現在の国籍法は明治時代の当時としては「極めて先進的」だったが、現在の日本の国籍法は、時代の要請に沿うものなのかということを歴史的経緯や時代的背景を踏まえながら、移民問題を研究する社会学者が検証している記事です。
※冒頭のPhoto J Michael Nicholls